九州大学大学院医学研究院
系統解剖学分野 佐藤グループ
研究内容
研究室紹介(2020年)オンラン大学院説明会
細胞特性の物理的転換の観点から造血発生を理解する
内皮-造血転換によって生み出された造血幹細胞はどうやら血流中を流れるための浮力を獲得していると予想されます。私たちの研究グループはこの発想のもととなる発見をしています(上記動画参照)。これまで力学的なな観点から造血発生現象は研究されてきませんでしたが、細胞の浮力獲得に関わる分子群の解析と「比重」による細胞選別技術とを組み合わせてこのしくみを解明しようとしています。
広域イメージングと細胞挙動の広域的制御
羊膜は柔軟に伸びる風呂敷のような特性を持ちます。どのようなしくみでこの「風呂敷」が無限といっても過言ではないスケールで伸展していくのかを細胞一つ一つの核を可視化し、観察しています。また、血管の広域ネットワーク形成課程の細胞挙動を解明するため、従来の顕微鏡観察システムとは異なるアプローチで開発されたトランススケール顕微鏡観察行っています(大阪大学との共同研究)。
血管形成過程を支える細胞挙動の解明
血管はからだの至る所に存在し、酸素や老廃物の運搬を担う器官です。さらには体温調節など恒常性の維持にも関わります。また、腫瘍形成においては、腫瘍組織内での過剰な血管新生ががん細胞の増殖や浸潤を促進します。私たちの研究グループではこのような血管形成メカニズムを解明するため、血管内皮細胞のライブイメージング解析を行っています。
内皮ー造血転換の分子機構
われわれの体内で酸素運搬や免疫応答を担うさまざまな種類の血球群は、骨髄に存在する造血幹細胞が分化することによって生み出されます。これらの骨髄に存在する造血幹細胞は、もともとは胚発生期に血管内皮細胞の一部が分化転換することによって生まれます。これを「内皮-造血転換」と呼びます。内皮ー造血転換により血管から生み出された造血幹細胞は、胚発生中に血管内を移動して最終的に骨髄に定着して維持されます。つまり内皮ー造血転換は、造血幹細胞を生み出す鍵となる重要な発生現象です。
造血幹細胞のもととなる血管内皮細胞は、それまで血管の構造を作るための形態(隣の細胞と接着していて扁平)をしていたにもかかわらず、造血幹細胞への分化転換の過程で血球のような形態(球状で細胞同士が接着していない)へ変化します。この際、どのような分子メカニズムが働いてこのような細胞特性の転換が起こるのかはまだ十分に解明されていません。この課題に実験発生学の手法を用いてアプローチしています。
羊膜は胎児(胚)を覆い羊水で満たすことで、乾燥や物理的な衝撃から胎児を守る役割を果たしています。羊膜は水中で胚発生する両生類や魚類の胚には形成されず、陸上で胚発生する脊椎動物が独自に獲得している形質であるため、水棲から陸棲への進化メカニズム解明という点からも興味深い組織です。わたしたちの研究グループでは、羊膜の細胞を可視化できるトランスジェニックウズラ胚のライブイメージング解析から、羊膜がどのようにして発生中の胚を覆っていくのか、また、羊膜がもつ驚異的な進展能力がどのような分子機構によって制御されるのかを研究しています。